動脈硬化は、血管の老化と考えられます。ゴムホースを思い浮かべてください。買ったばかりのホースは弾力性がありしなやかですが、使い続けていくとだんだん硬くなり、曲げてみるとヒビ割れたりします。硬くなりますが、もろくもなります。また、内側にはごみが溜まったりして目詰まりしてきます。最悪の場合、詰まってしまうでしょう。血管にも同様のことが起こります。これが動脈硬化です。血管においては、目詰まりのことを「狭窄」、詰まりのことを「閉塞」といい、さまざまな病気を引き起こします。心臓で言えば狭心症、心筋梗塞、脳で言えば一過性脳虚血発作、脳梗塞、足で言えば閉塞性動脈硬化症などです。動脈硬化(症)は全身病なので、全身どこの血管にも起こりますが、やはり起こりやすい部分がありそれが前述の心臓、脳、足です。ご存知の通りこれらの病気はいずれも致命的になり得ます。したがって予防が重要になってきます。それでは動脈硬化の予防とはどうすればいいのでしょうか。
動脈硬化は先ほど述べたように、全身の血管の老化です。すなわち誰もが避けては通れないものです。ただ、白髪になるのが早い方もいれば60歳を過ぎても黒々とした髪を御持ちの方がいらっしゃるのと同じで、動脈硬化がすすむスピードもひとそれぞれということです。例えば動脈硬化の程度が数字で表せるとして、2000を超えると脳梗塞を起こしたり、心臓の手術を受けなければならなくなるとして、ある人は早くも60歳で到達してしまったり、一方ある人は100歳で到達するために天寿をまっとうできる可能性があるということです(図1)。
それでは動脈硬化のすすむスピードを遅くすることは出来るでしょうか。残念ながら現代の医療でそれは不可能です。しかし、スピードを早くしているものがあったとしたらそれを治療することで、せめて「人並みのスピード」にすることが出来ます。
動脈硬化の進行を早めるもの(=リスクファクター)の代表が、生活習慣病です。つまり高血圧、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症(痛風)、肥満で、他には喫煙などがあります。これら生活習慣病は、現在では初期あるいは軽症のうちに健康診断などで発見されることが多く、自覚症状に乏しいためとくに仕事や家事に追われる40~50歳代の働き盛りの方たちにとっては、ついつい放置されがちです。しかし、生活習慣病を放置すれば確実に動脈硬化の進行は加速していきます。
生活習慣病の治療の基本は生活習慣の改善、すなわち食事療法と運動療法ですが、これほど難しいものはありません。なにしろ基本的には一生続くものでゴールがないことに加えて、血圧やコレステロールの数値以外には治療の効果が実感しにくいためにモチベーションが長続きしません。生活習慣病の治療は継続性が大事です。そこで当院では動脈硬化の程度が測定できる医療機器を導入しています。
血圧脈波検査装置というもので、からだへの負担はごく少なくしかも簡便に5分ほどで検査できる方法、機器です。方法は血圧計を四肢にまき同時に血圧を測定します。そして腕から足首までの血液の伝わる速度(脈波伝播速度)を計算します。それが動脈の硬さをあらわす指標となります。
今まで動脈硬化の診断は血管の「かたち」を血管撮影、超音波、CT、MRIなどを駆使して行われていましたが、この検査の最大の利点は、誰にでもわかりやすい「数字」で動脈硬化の程度を表せること、と考えています。この数字で動脈硬化の程度すべてを表現できるとは思いませんが、なにより患者さんにとっては目標になりやすいのでは、と思います。
最近では、リスクファクターとなる疾患をきちんと治療した場合、この数字が改善するという報告も出てきています。
なんとなくお分かりになったでしょうか。現在情報があふれているために医者でさえも混乱してしまいがちですが、治療の基本はしっかりおさえていきたいと思います。ご不明な点はいつでも御気軽にお問い合わせください。